妊娠・出産にまつわるメンタル不調と早期対応の重要性

2016.05.23

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妊娠・出産にまつわる女性のメンタル不調に注目が集まりつつあります。保健師などのヘルスケアの専門家が、産後間もない母親の自宅を訪問し、産後うつのチェックを行うという従来の自治体での施策に加え、新たに、妊娠中の女性にもメンタル面のチェックを行うことを推奨する動きが出てきました。日本産婦人科学会が、産後のメンタル不調の早期発見、早期治療のためには、「(産後の母親だけではなく)全ての妊産婦の精神面をチェックする必要がある」とする報告書をまとめ、今後の議論を経て、2017年に改定予定の産婦人科診療ガイドラインに盛り込むことを発表したからです。

なぜ妊娠・出産にまつわる女性のメンタル不調に注目が集まっているのでしょうか。それは、様々な調査を通じて、以下の傾向が明らかになっているからです。

・出産後の母親の5人から10人に1人という高い割合で産後うつが発症していること

・産後だけでなく、妊娠中もうつ病を発症するリスクが非常に高い時期であること

・妊産婦の自殺率は、全体の自殺率の2倍にのぼること

・早期発見と適切なケアが重要であるにもかかわらず、メンタル不調に陥っている妊産婦の多くは適切なケアに繋がっていないこと

・妊産婦のメンタル不調は、子どもの発達や家庭に大きな影響を与え得ること

母親が心身の不調から回復し、よいコンディションで子どもとの関わりを深めていくためには、不調の早期発見、早期対応が重要です。

 

どのような要因が出産にまつわるメンタル不調の原因となり得るのか

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 産前・産後の母親は、生理面での大きな変化を体験します。循環血液量や心拍数の増減、子宮の拡張と収縮、コルチゾールの急激な増減によるホルモンバランスの乱れなどです。これらの変化は、人生の他の時期では体験することがない程のレベルで激変するといいます。心と体はお互いに影響を与え合っているため、このような生理面での大きな変化は心にも影響を与えます。大きな理由がないのにイライラする、些細なことで気分が落ち込むのはそのためです。

妊娠・出産の時期に生じる変化は、上記のような生理的な変化だけではありません。心理・社会的な側面においても、大きな変化が生じます。例えば、「娘から母親へ」といった家族内での役割の変化、「父と母」という新しい役割が加わることによるパートナーとの関係性の変化、退職や休職などによる社会的役割の変化と、それに伴う経済的損失などです。「出産は病気ではない」と言われますが、妊産婦が経験する変化は多様であり、負荷は決して小さなものではありません。

上記のような変化に伴う不調は、「マタニティブルーズ」と呼ばれ、多くの場合、時間の経過と共に落ち着いていことが多いのですが、変化の負荷に、遺伝や人格面の発達などの元々の要素が重なった場合、不調が長引き、重症化しやすくなると考えられています。特に、以下の条件に当てはまる場合は、リスクが高くなる傾向があります。

【出産にまつわるメンタル不調の要因】

①過去に心身の不調でカウンセリングやセラピーを受けたり、精神科に通院していたことがある

②情緒的、物理的なサポート資源が少ない(例:夫や両親から産後の具体的なサポートを得られない、そのような良好な関係性にない等)

③妊娠中や産後早期に人生上の辛い出来事を経験している(例:妊娠中に親族を亡くしている)

④母親自身のアタッチメントスタイルに偏りがある(アタッチメントスタイルについてはこちらへ)

⑤強いストレスを感じている

⑥望んだ妊娠ではなかった

 

妊娠・出産にまつわる母親のメンタル不調が子どもや家庭に与えうる影響

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妊娠・出産にまつわるメンタル不調は、母親自身の苦しみとなることはもちろんのこと、生活を共にする夫や子どもへも、大きな影響を与えうることが、様々な調査で指摘されています。

具体的には、産後のメンタル不調に苦しむ母親の夫は、うつ病を発症する割合が優位に高いという報告があります。また、子どもへの影響の大きなものとしては、愛着形成への影響があげられます。心身の不快な症状ゆえ、母親が子どもの感情や身体的なニーズに応じることが難しいことにより、子どもが人生の基盤となる「対人面での安心、安全の感覚」を得ることが難しくなり、そのことが長期に渡る不安定な対人関係の原因になりうるということです。こういった母子間の愛着形成は、出産後に始まるのではなく、妊娠中、つまり、子どもが胎児の時から始まっていることが明らかになりつつあります。母親がどんなメンタルの状態で、どんなスタンスで子どもに関わっているかということは、出産以降のみならず、子どもが胎児の頃から影響を与えるということです。

もちろん、母親がメンタル不調にあると、子どもの愛着スタイルが必ず不安定になるという訳ではありません。子どもに与える影響の内容や程度は、母親と子どもとの交流が、どのくらい、またどのようにしてうまくいかなかったのか、そして、それは子どもの発達のどの時期に起きたのか、そして、どの程度周囲からサポートを得ることができるのかによっても異なります。

また、子どもの愛着形成は、母親から子どもへの一方的な関わりによって形成されるのではなく、母親と子どもとの相互作用により形成されます。つまり、母親からの働きかけのみではなく、子どもがどのような気質を持っているかによっても影響を受けるということです。とはいえ、母親が妊娠早期の段階から、自分のストレスや心身の状況に留意し、必要なケアやサポートを受け、穏やかな心身の状態を保つことは、家族全体のウェルビーングという視点からも重要です。

 

なぜ適切なケアに繋がらないのか

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上述した行政の取り組み(産後うつの早期発見を目的とした訪問事業)では、治療が必要と判断された母親に対し、主に精神科への受診を勧めることで早期治療を目指します。しかし、実際に母親が精神科受診に繋がることは非常にまれであると言われます。精神科における治療は服薬が中心となるため、授乳を通じて薬物が乳児へ影響することへの懸念や、精神科を受診すること自体のハードルの高さ、新生児を抱えての受診の困難さなどが原因として予想されます。 

また、産後にメンタル不調に陥っていても、育児疲れや一時的なマタニティブルーのためと認識し、母親自身が治療の必要性を正確に認識できていなかったというケースも少なくありません。日本では、妊娠・出産にまつわるメンタルヘルス、つまり、産前・産後にどのような変化や不調が起こりうるか、そして、どのような対策を講じ得るか、ということについての情報を、母親が事前に得る機会が非常に限られていることも、早期対応を難しくしている要因なのかもしれません。

上記「出産にまつわるメンタル不調の要因④」で挙げたように、母親自身が子ども時代に適切な養育を受けることができず、人生の基盤となる「対人面での安心、安全の感覚」を得られていない場合は、その未解決のテーマが、子どもや夫、ママ友などとの関係を通じて再現されていく中で、母親が孤立していくことが少なくありません。対人不安の強さゆえ、家族のサポートや公的サービスの活用にも負担を感じ、問題を感じつつも、必要なサポートを受け入れられないまま、心身の状態が悪化していく可能性も否めません。

 

適切な早期対応のために

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 妊娠・出産期は、新たな生命の誕生という喜びに満ちた時期であると同時に、生理面での激変が心理面にも影響を及ぼし、そのことが家族の健康や幸せにも影響を与えかねない非常にクリティカルな時期と言えます。祝福の時期を満喫すると共に、そのリスクも認識し、妊娠早期から自身の心身の状態に意識を向け、必要があれば、早めに適切な対応をすることが大切です。例えば、安心できる人に助けを求める、もしもの時に利用できる育児サービスや相談先などを予め見つけておく、実家の両親など、家族間でどの程度のサポートが可能なのかを話し合っておく、母親自身が専門家のケアを受ける、などです。

専門家のケアについては、心身の状態に合った内容を選択することも大切です。軽度から中等度の産後うつの場合であれば、カウンセリング等の心理的ケアに薬物療法と同等の効果があるとの調査結果があります。また、妊娠・出産にまつわる心身の不調は、生理面のアンバランスが心理面に影響を及ぼす部分が多いことを考えると、心と身体の繋がりにアプローチするソマティックなセラピーもまた有効な選択肢の一つになると思われます。とはいえ、不調の程度や状況によっては、精神科での薬物治療が一番の近道になることも、もちろんあります。「授乳できなくなるから薬は避けたい」という気持ちは、赤ちゃんへの愛情の表れであると思いますが、例え授乳ができなくても、服薬することで母親が心理的に安定した状態で育児に当たることができるというメリットもあります。それぞれの療法のメリット・デメリットを冷静に判断すること、その為に専門家からのアドバイスを受けることも重要です。


妊娠・出産という大きなライフイベントを迎える女性が、安心して自らの人生のプロセスを進めていくためにも、また、生まれてくる子どもたちが、人生の基盤をしっかりと作り、自らの可能性を最大限に発揮するためにも、妊娠・出産期の母親のメンタル不調の早期発見、早期対応が望まれます。

 

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