トラウマのためのヨガ

updated:2013.06.05

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ヨガの効果を科学的に解明し、治療に活かしていこうという動きが急速に進んでいます。そのひとつが、トラウマ治療で世界的に有名な精神科医、ヴァン・デア・コークの活動です。

コーク博士は、アメリカのボストンにトラウマセンターを設立し、ヨガ教師と共に開発した「トラウマ・センシティブ・ヨガ」というプログラムを、トラウマ治療の一環として提供しています。

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◆なぜヨガがトラウマに効果があるのか◆
トラウマセンターでの臨床を通じ、コーク博士は『人間の生理的な反応である「防衛反応」、が何らかの理由で途中で遮られ未完了となることが、トラウマ症状の原因となり得る』という理解に至りました。そして、トラウマからの回復には、身体感覚を味方につけることが必要であると考えました。この理論は、ソマティック・エクスペリエンスの考え方と一致しています。

防衛反応が未完了になるということは、トラウマの原因となる出来事が終わっても、防衛反応は終わらずに続いているということです。その影響により、それ程危険を感じる必要のない場面やちょっとした刺激にも「ひっかかりやすく」なります。つまり、いらいらする、緊張感が続く、体が硬直するといったような、過去のトラウマに由来する身体感覚に引き戻され、その都度苦しむような状態です。
トラウマに関連する感覚の再現は、外部の環境に反応して起こるだけではなく、我々の内部感覚によっても引き起こされます。例えば、感情や月経期間に起きる身体感覚などです。つまり、今現在過去のトラウマに関連する出来事は外部環境で起きていないのに、何らかの内面の感覚がきっかけとなり、トラウマに関連する感覚が再現され得るということです。これが、コーク博士が「トラウマの回復には、身体感覚を味方につけることが必要」と考えた所以です。

これまでのセラピーは、言語を用いて主に感情と思考の間を行き来し、苦しみの原因を論理的に明らかにし、対処法を探し当てようとする方法が多く用いられました。しかし、トラウマ体験を「語る」ことは、暗黙の記憶の活性化やトラウマに結びついた身体感覚、生理的過覚醒、低覚醒を引き起こす傾向があり、無力感、恐れ、恥、怒りなどの感情を呼び覚ます可能性があります。これが起きると、トラウマに苦しむ人々は、「トラウマに関わり合うには、今はまだ安全ではない」と感じてしまうかもしれません。

トラウマ反応は内部感覚のレベルで起きています。トラウマからの回復には、有効な防衛反応を取り戻し、内部感覚を味方につけ、新たな行動様式を築くための身体的、感覚的経験が必要です。トラウマセンシティブヨガは、トラウマをもつ人々が肉体レベルに繋がることをまず大切にし、それを入口として情緒や認知へと進んでいきます。そして、「現在に留まる力」「内的経験に気付き、それを受け入れる力」を養い、自らの体との新たな関係を育成していきます。
トラウマ・センシティブ・ヨガの4つのテーマ
トラウマセンシティブヨガは、トラウマを持つ人のためのヨガとして、以下の4つのテーマを掲げ、実際のプラクティスに取り組んでいます。

□「今この瞬間」を経験すること
□選択すること
□有効な行動をとること
□ リズムを作ること

 

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◆今この瞬間を経験する◆

コーク博士は、トラウマ治療の目標を「人が過去に属する的外れな要求に従って感じたり行動したりすることなく、現在に生きるように手助けすることである」と述べています。
トラウマをもつ人々は、防衛反応のような生存反応の結果として、今現在起きていることではなく、過去のトラウマに生理的に巻き込まれやすい状態になっています。その状態は、現在の豊かさを受け取ることができない非常に苦しい状態です。しかし、そういった状態を手放し、現在を生きようと強く誓っても、防衛反応は生理的な反応であり、意思の力でコントロールすることは難しくもあります。
トラウマセンシティブヨガは、ヨガという体を用いたプラクティスを通じて、今現在に自分の体に住まうことを学び、体が発する信号を受け止め、自分の反応を理解することを促進します。 そして新たに、今現在に留まるための身体的な手がかりを育成していきます。、それらは体との分離が激しい状態ではどれも難しいことです。

◆選択する◆
トラウマとは、「選択肢のない状況」の経験です。その状況を経験することは、この世界を生きる上での私達の主体感を傷つけます。この世で起きることに対して、自分は何のコントロールもできない、という極めて深刻な自分自身に対する不信感を抱くようになります。そして、自分自身の人生に主体的に関わることをやめてしまう傾向があります。回復には、これらの「主体感」「コントロールしているという内的感覚」を再び手にすることが必要です。
トラウマセンシティブヨガは、トラウマに苦しむ人々が、「自分の体と経験に合わせて選択する」 ことを尊重します。そして、「その人の体に関わる小さくて扱いやすい選択」のプラクティスを提案します。

◆有効な行動をとる◆
トラウマの状況は、エネルギーの全てが、脅威から逃げることや戦うことに向けられているにも関わらず、何らかの理由でそれができない経験です。つまり、防衛反応が全うされず、凍りついた状況です。トラウマをもつ人の多くが、トラウマの原因となる出来事から長い時間が経過しても、心や体を脅威や重圧に向き合わせることが難しく、身動きができなくなっている自分を繰り返し感じています。
トラウマセンシティブヨガは、セッションやプラクティスの間、本人が「自分のためになること、快適なこと、自分が自分を管理しているのだと感じられること」を能動的にすることを尊重します。例えば、セッションの途中であっても室温を心地がいいように調整する、セラピストの位置を自分にとって安全を感じられる位置にしてもらうよう要請する、といったようなことも「有効な行動」として推奨しています。

◆リズムをつくる◆
トラウマをもつ人々(特に複雑性トラウマをもつ人々)の多くは、協調性の欠如と断絶を感じています。協調性とは、同調すること、リズムにのることです。それらが欠如すると、他の人たちと歩調が合わない、自分自身ともかみ合わないといった感覚をもつようになります。そしてそれは、孤立感や孤独感を招くようになります。食事や睡眠、活力といったバイオリズムの乱れも、リズムの不調のひとつのサインと言えます。トラウマセンシティブヨガは、例えば呼吸と動作を用いて、個人内のリズム(自分の中の協調)と個人間のリズム(他者との協調)を探索していきます。また、「時間」という要素もリズムの一つです。トラウマをもつ人々の多くは、何らかの引き金により、過去のトラウマ体験の感覚に繰り返し引き戻される経験をしています。その経験は、「トラウマは決して終わることはない」という思いを作りだします。また、体がいつも警戒態勢にあるため、ヨガのポーズなどのごく普通の刺激が、トラウマ的な出来事として身体的に解釈される傾向にあり、ポーズを保持することを苦手に感じる傾向があります。
トラウマセンシティブヨガでは、ポーズを保持する時に、時間をカウントダウン(5、4、3・・)する方法を取り入れています。終わりを意識することでポーズを保持する不安感を減らすと共に、物事には始まりと終わりがあることを体験することを通じ、時間感覚のリズムを取り戻すことを目指していきます。

 

 
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