ソマティクスが目指す“脳の再学習”とは 〜自分で感じて動かすことの意味〜

2020.04.30

トーマス・ハンナの理論に基づくソマティクス(ソマティック・エクササイズ)では、痛みや筋緊張の原因はセンサリー・モーター・アムネジア(SMA)にあると考えます。そしてバンディキュレーションという“自分で身体を感じて動かすエクササイズ”を通じて改善を試みます。

なぜバンディキュレーションで痛みや筋緊張の改善を得られるのでしょうか。神経生理学の視点から、以下のように説明することができます。

 

痛みは脳の誤学習である

 

本来、筋肉のコントロールは意識的な脳=皮質が管轄しています。筋肉を“感じる”ことで感覚皮質が現在の筋肉の状態を受容し、その状態に応じて運動皮質が運動の司令を出す、という感覚と運動の連携が確立されています。

しかし、身体が手術や怪我といった身体的トラウマやストレスなどに繰り返し晒されると、筋肉が反射的に収縮することが習慣化し、無意識化します。そのプロセスにおいて、筋肉のコントロールの管轄が皮質(意識的な脳)から脳幹(無意識の脳)へと移行するという、脳の誤学習が起こります。その結果、筋肉を意識的に緩めることができない状態になります。これがいわゆるセンサリー・モーター・アムネジア(SMA)です(詳しくはこちらへ)

 

神経レベルで筋肉をリセットするための脳の再学習

 

神経レベルで筋肉をリセットするために必要なことは、筋肉のコントロールを脳幹から皮質に取り戻すための脳の再学習であるとソマティクスでは考えます。具体的には、ターゲットとする筋肉を、現在よりも一旦さらに意識的に収縮させます。そこからゆっくりと意識的に筋肉を緩めることで、中枢を介して筋肉の長さと緊張をリセットします。この一連の動きをバンディキュレーションと言います。

バンディキュレーションはプラクティショナーにより他動的に行われるのではなく、プラクティショナーのガイドを元に自分で身体を感じて動かすことによって行います。この自分で感じて動かすことが脳の再学習のポイントとなります。

 

筋肉のコントロールを取り戻す=皮質脊髄路を用いるということ

自分で感じてゆっくり動かすことが再学習のポイントとなるのは、そうすることでのみ皮質脊髄路を使うことができるからです。皮質脊髄路とは、大脳皮質から脊髄まで伸びる神経線維の伝達路です。脳から脊髄へと至る運動神経系の経路は主に6つありますが、皮質脊髄路のみが意識的に筋肉を緩めることができる伝達路です。ソマティクスでは、バンディキュレーションを繰り返すことで、この皮質脊髄路を再び使えるようになることを目指します。つまりそれが筋肉のコントロールを脳幹から皮質に取り戻すこと=脳の再学習になるのです。

 

他のメソッドとの比較

 

他のメソッド、例えばマッサージのような受け身の施術でもこの皮質脊髄路を用いることができるのでしょうか。答えは“No”です。セラピストに身体を動かしてもらうワークでは、皮質脊髄路を用いることができず、筋肉が中枢を介して弛緩をするための学習は起こりません。(受け身のワークに効果がないという訳ではなく、目的と結果が“学習”とは異なるということです)

 

ソマティクスにおける、プラクティショナーの役割

自分で感じて動かすことに意味がある、それがソマティクスですが、もちろんプラクティショナーがお手伝いをします。ソマティクスのセッションは一見ヨガに似ているのですが、ヨガとは大きくことなることのひとつは、プラクティショナーが原則お手本を見せないということです。お手本を見せることで、身体を“感じて動かす”のではなく、外側からただ型を真似てしまう可能性があるからです。“感じて動かす”ことがなければ脳の再学習は起こりません。そのため、プラクティショナーは口頭でのみガイドをします。「尾骨をマットに押し付けて背中をアーチにします」「上体を起こして両肘を両膝の方へ向けます」などといった言語によるガイドを聞き、自分で身体を感じながら動かしていきます。

自ら“感じて動かす”ことにこそ意味がある、それがソマティクス(ソマティック・エクササイズ)の特徴です。

カテゴリー: ソマティック・ムーブメント

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