映画「The cell」に見る、トラウマの世界

2014.08.10

どうしたら、トラウマやソマティック・エクスペリエンス(SE)についてわかりやすく説明できるだろう?

そんなことを考えていた時、友達がある映画を教えてくれました。

「The cell」

絶頂期のジェニファー・ロペス演じるサイコセラピストが、連続殺人犯の「内的な世界」へ入り込み、事件の解決に挑むSFのサイコサスペンスです。2000年に上映され、当時はかなり話題になっていたようです。

「相手の内的な世界に入り込む」という、一見現実味のないストーリーではあるのですが、ある意味、ソマティック・エクスペリエンス(SE)でトラウマセラピーを行う際のエッセンスをうまく表現してくれています。

【閲覧注意】映画本編にはグロテスクな映像や暴力的な表現が多く含まれていますので、興味を持たれた方は、体調とご相談の上ご判断ください(^_^;)

ストーリーの一部を再現してみます。

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catherine_pschotherapist

サイコセラピストのキャサリンは、脳科学研究所の最先端の技術をを用いて、患者の「内的な世界」に入り込み、セラピーを行う日々を送っています。ある日キャサリンは、「スターガー」という男性の内的世界に入り込むことを警察から依頼されます。スターガーは連続殺人事件の犯人で、被害者をどこかへ監禁したまま病気の発作で意識不明に陥っています。内的世界でスターガーと接触し、被害者の監禁場所を聞き出してほしいというのが警察からのオーダーでした。

starger

キャサリンがスターガーの内的世界に入り込むと、そこはもう、暴力に満ちたカオスの世界。そこでキャサリンは、スターガーの過酷な幼少期を垣間見ます。母親から捨てられ、父親からは命に関わるような虐待を受けています。

キャサリンは、スターガーの内的世界で出会った、「純粋な子供の姿のスターガー」に接近を試みますが、そこはスターガーのトラウマが投影された世界。気を抜けばすぐにモンスターが攻撃してきます。キャサリン自身も一時は我を失い、スターガーのトラウマの世界に支配されます。

「トラウマに満ちたスターガーの世界では勝算がない。」そう感じたキャサリンは、自分がスターガーの世界に入り込むのではなく、キャサリンの安全な内的世界にスターガーを招き入れ、そこでスターガーにアプローチすること思いつきます。

catherine`s world

キャサリンの内面、それはもう、しっとりと雪が降り、美しい花が咲く、静かで安全な世界です。キャサリンの内的世界に招かれ、生まれて初めて安全な世界を経験するスターガー。そんな安全な場所であっても、スターガーのトラウマが反映されたモンスターは現れます。しかしそこは、キャサリンの安全な内的世界。環境に支えられたキャサリンは落ち着きとコントロールを取り戻し、スターガーのトラウマに飲み込まれることなく、モンスターを退治していきます。

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と、まあ、ありえない話なんです(;^ω^)

相手の世界に入るとか、自分の世界に招き入れるとか、バウンダリー的にどうよ∑(゚д゚lll)ガーンというツッコミどころも満載ではあるんです。

ですが、トラウマの真っただ中(スターガーの世界)に飛び込み、戦いを挑んでも、そこでは癒しは生まれないということを、映像でうまく表現しているなあとは思うのです。

 

「トラウマ」と「リソースの構築」

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スターガーの内面世界、つまり、恐怖や暴力が溢れた世界では、優秀なサイコセラピストのキャサリンをしても、スターガーの圧倒的なトラウマの渦に巻き込まれ、コントロールを失い、モンスターを倒すことはできませんでした。一方、キャサリンの内的世界、つまり、安全、安心、穏やかさに溢れた世界にスターガーを招き入れた時は、キャサリンは自分のコントロールを取り戻し、スターガーのトラウマに巻き込まれることなく、モンスターを退治することができました。

このことは、安全、安心、穏やかさといった「リソース」の確立が、安全にトラウマを完了させる前提としていかに大切かを表しています。(リソースについてはこちら

映画の中では、キャサリンが「リソースの象徴」として描かれていますが、現実世界では、誰かの内的世界に招き入れてもらうことはもちろんできないので(^_^;)、本人の知覚の中にリソースの世界を構築していくことになります。言い換えれば、スターガー自身が「恐怖心や嫌悪感」だけでなく、「安心感や心地よさ」を身体を通じて知覚できるよう、セラピストと一緒に練習を積んでいく、ということです。これがソマティック・エクスペリエンスの初期のセッションで行うことの一つです。そして最終的には、スターガーがリソースと繋がりコントロールを保ちながら、飲み込まれることなくトラウマに由来する感覚を完了させていくことを目指します。

余談ですが、私自身はこの映画を見て、「私はキャサリンのように、“自分の内的世界はクライアントさんのリソースになる”と言い切れるだろうか?」といった問いが生まれました。・・・、お招きする前にクローゼットの中に色々隠しておかないとです(;^ω^)“内面に招き入れる”はあり得ない話ですが、セラピストがリソースフルであることは重要ですね。精進(^_^;)

 

「身体」と「人生のストーリー」

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スターガーの内的世界があれ程までにカオスなものになった原因は、「幼少期のトラウマと重度の精神病理があいまってのもの」と映画の中では描かれています。

スターガーの「幼少期のトラウマ」の部分にフォーカスしてみると、彼にとっての両親の存在は、「安全」「安心」どころか、「危険」「脅威」ばかりを感じさせる存在であったことが想像できます。そういった体験は、後の「偏った知覚のパターン」を形成する原因となり得ます。例えば、環境に存在する数多くの刺激の中から「危険寄りの刺激」ばかりをキャッチし、「安全や心地よさの刺激」はキャッチしづらく、ひいては実際には安全なものまで、危険なものとして知覚する傾向が生じうるということです。後者を表す例としてよく使われるものに「蛇か棒か」と呼ばれる例があります。道端に「黒い塊」を見つけた時、塊に近づき正体がわかるにつれ、「ああ、黒い棒が落ちているんだな」と現実的な反応をする人と、「蛇がいる!」と恐怖に駆られた反応をする人がいる、という例です。

(脅威の体験や両親との関係性の課題がある人全てがそうなる訳ではもちろんありません。その後の経緯が大きく影響します)

このような知覚の傾向は、「スターガーが両親との関係をどのように考えていたか」「両親にどんな感情を持っていたか」といった思考や情緒の側面というよりも、身体の反応(=生理的な側面)が大きく関与しています。

◇恐怖を司る「扁桃体」という脳の部位の反応

◇危険の出所や程度を判断するための、「周囲を見回す(オリエンテーション)」反応

◇「他者との関わり(social engagement)」に関与する「腹側迷走神経」の反応

◇幸せホルモンと言われる「オキシトシン」をはじめとしたホルモンの分泌

◇免疫系の反応

etc・・

こういった、人間に生得的に備わっている身体の反応(=生理機能)が、上記の「刺激に対する知覚のパターン」に影響を与えています。言い換えると、大きな脅威を感じる体験により、上記ような身体的機能に支障が生じることで、知覚のパターンに偏りが生じ得るということです。

成人したスターガーとキャサリンが全く同じ環境で生活し、同じ出来事に遭遇していたとしても、おそらく二人の内面に生まれる「人生のストーリー」は全く別物になっていたことでしょう。安定した身体・生理面を持つキャサリンと、そうではないスターガーとでは、知覚や反応の仕方があまりにも異なり、反応が異なれば、得られる結果も変化しうるからです。「人生のストーリー」は、起きた出来事の内容や、その捉え方によるものと考えられがちですが、ある意味「まず最初に身体の反応ありき」と言える訳です。

ソマティック・エクスペリエンス(SE)では、主にこういった身体面(=生理的側面)にアプローチし、支障が生じている機能を取り戻すことに主眼を置いています。

 

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