各セラピーの特徴とゴール|自分に合うセラピーを選ぶために

2013.09.24

気分の落ち込みや不眠、パニックなど、心身の不調を訴える方の数は増加の一途を辿っています。巷には多くの心療内科や精神科が、インターネット上には様々なカウンセリング、セラピーの情報がありますが、実際に心身の不調に陥った時、どんな治療、カウンセリング、セラピーを受ければいいのかわからないという声も聞こえてきます。 様々な治療法、カウンセリング、セラピーの技法は、本人の苦痛を和らげることを目標とすることは共通しているものの、心身のどこにどういった働きかけを行い、何をゴールとするかは、それぞれ異なります。 自分自身にフィットした治療やセラピーを選択するために、それぞれの特徴、目指すゴールを知っておくことは重要です。

この記事では、現在の日本の主流と言われる、

①薬を用いた治療
②認知行動療法

また、認知行動療法の一流派であり、PTSDのセラピーである

③暴露療法(ちょとびっくりするような名前ですが^_^;)

そして、ソマティック心理学の一流派であり、身体(自律神経)に働きかけるトラウマセラピーである

④ソマティック・エクスペリエンス

上記の4つの治療法、セラピーを比較し、その特徴とゴールを明確にすることを目的としています。

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①薬による治療の特徴とゴール

心療内科や精神科などの医療機関で主に行われる治療法は、薬を使って症状を抑える対症療法です。病態に対する仮説に基づき、現れている症状を抑える薬、例えば、気分が落ち込んでいるのであれば、気分を浮上させる抗鬱薬を、不安や過覚醒を感じるのであれば、鎮静作用のある抗不安薬や向精神病薬を処方する、という方法が取られます。 症状を抑える効果がある一方、眠気や嘔気、便秘、口の乾き、体重の増加等、副作用も起こりえます。病院によっては、精神療法(医師が行う心理療法)にも力を入れているところもあります。しかし、昨今の患者数の増加と診療時間の限界から、医師は薬の処方に専念せざるを得ないという状況も見受けられます。

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②認知行動療法(cognitive behavioral therapy)の特徴とゴール

薬が体の生理的機能に直接働きかけるのに対し、認知行動療法では、その人の物事の受け取り方や考え方のパターンを、セラピストとの対話や記述による振り返りを通じて観察し、より柔軟で現実的な内容へと変容を促していきます。その理論は、

出来事  →  認知  →  気分、行動
 
という「情報処理モデル」や「認知モデル」を基盤にしています。つまり、出来事が気分や行動に直結しているのではなく、その間にその人特有の認知、つまり、物事の受け取り方や考え方が介在しており、それが気分や行動に影響を与えると考えます。

人間は常に状況を主観的に捉え、考え、判断しますが、強いストレスを始めとした特別な状況下においては、認知が柔軟性を失って偏りが生じ、不適応な反応を示すようになります。例えば、以下のような悪循環が生じます。
 
【出来事】友達に誘いを断られる
【認知】自分は友達に嫌われているのかもしれないと考える。(出来事を、柔軟性を欠く偏った認知で受け取る)
【気分、行動】気分が塞ぎこみ、友達を避けるようになる。(偏った認知が気分の落ち込みや不適応な行動を招く)
【認知の強化】友達を避けることで関係が疎遠になり、「やっぱり自分は嫌われているんだ」という認知を強める。(気分や行動が偏った認知を強める)
【不適応な行動の強化】特定の友達だけではなく、人全体を避け始める(さらに偏った認知が、更なる不適応な行動を招く)

このような悪循環に対し、認知行動療法では、過去の経験から形成された認知のパターン=考えグセの棚卸を行い、その考え方が本当に妥当なのか、もっと他に現実に即した考え方、受け取り方はないのかを模索します。上記の例で考えてみましょう。

【出来事】友達に誘いを断られる
【認 知】自分は友達に嫌われているのかもしれない(・_・;)
     →思い込みの可能性を検証:その根拠は何?
     →他に認知の選択肢はない?
      →たまたま先約があっただけかもしれない
       体調が悪かったのかもしれない
       そういえば、仕事が忙しいって言ってたな(^_^;) etc…

このように認知に広がりができることで、気分や行動面の選択肢も広がり、柔軟性が増すことを目指します。

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③暴露療法(prolonged exposure)の特徴とゴール

認知に働きかけるという点は、前述の認知行動療法と同じですが、具体的なアプローチの仕方に大きな違いがあります。以下の例で考えてみましょう。

◇出来事
よく晴れた日に、音楽を聞きながらドライブしていたら、反対車線の車が対向車線を超えてこちらの車線に侵入し、追突した。

◇出来事後の反応
【状況】事故後、安全な街中を歩いていた
【恐怖を与える刺激】事故の時に車中でかかっていた音楽が聞こえてくる
【意味づけ】「この音楽がかかっていると危険なことが起きる(・_・;)」
【恐怖反応】強い恐怖心や動悸が出現する

暴露療法では、この構造を以下のように変えていくことを目標とします。

【恐怖を与える刺激】事故の時にかかっていた音楽が聞こえてくる
【意味づけ】「事故の時にかかっていた音楽だけれども、この音楽が危険を引き起こすのではない。今は安全だから大丈夫( ´∀`)」⇐ここが変わっています!
【恐怖反応】強い恐怖反応は起きない

つまり、恐怖を与える刺激=音楽が直接恐怖反応=強い恐怖心や動悸を呼び起こすのではなく、その間にある意味づけ(認知)=この音楽がかかっていると危険なことが起きる(・_・;)が恐怖反応を呼び起こすと考えます。ここまでは認知行動療法と基本的に同じ考え方ですね。

意味づけ=認知を変えるために、暴露療法では以下のことを行います。

事故の記憶を繰り返し思い出し、意図的に恐怖を何度も味わう
               ⇩
繰り返し思い出して恐怖を味わっても、危険なことは起きないという現実をくりかえし体験することを通じて、
病的な意味づけ:「この音楽がかかっていると危険なことが起きる(・_・;)」
現実的な意味づけ「事故の時にかかっていた音楽だけれども、この音楽が危険を引き起こすのではない。今は安全だから大丈夫( ´∀`)」へと変容させていく
               ⇩ 
病的な意味づけが現実的な意味づけに変化するに伴い、恐怖心や不安感が軽減する
               ⇩
激しい恐怖反応を起こさずに、出来事を思い出せるようになる

ここで鍵となるのが、回避という概念です。
出来事に伴う恐怖が強すぎると、人はその恐怖を感じることを避けようとする(回避)傾向があります。暴露療法において、繰り返し出来事を思い出しても、それに伴う恐怖を回避してしまうと、情動(恐怖心)と認知(意味づけ)が十分に処理されず、病的な意味づけ(認知)を修正することができません。一方、回避せず、恐怖という情動にどっぷりと浸りすぎることで、気分の変調をきたす可能性や、偽りの記憶を形成する可能性も指摘されています。相談者を回避させず、かといって恐怖が強くなりすぎないように、刺激量のさじ加減や安全な場作りがセラピストには求められます。

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④ソマティック・エクスペリエンス(somatic experiencing)の特徴とゴール

以前の記事にも書きましたが、再度ここで他の療法と比較をしてみます。

認知行動療法や暴露療法では、トラウマ症状が起きる原因やアプローチの焦点を認知情動といった心理学的側面に置いているのに対し、ソマティック・エクスペリエンスでは、それらを生理学的側面に置いています。具体的には、脅威に遭遇した時に起きる生理的な反応(防衛反応)が最後まで阻害されることなく完了されれば、トラウマ症状が起きることはないと考えます。逆に言えば、トラウマ症状が起きているということは、脅威に遭遇した際の生理的な反応が、完了せずに出来事が終わった後も続いているということです。上記の暴露療法で用いた例で考えてみましょう。

<出来事>
よく晴れた日に、音楽を聞きながらドライブをしていたら、反対車線の車が対向車線を超えてこちらの車線に侵入してきた。

脅威(侵入してくる車)に対し、生理的な反応(防衛反応)が生じて危険を回避できた場合、つまり、生理的な反応を完了できた場合に起きる神経系のプロセスは以下の通りです。(簡略化しています。)

脅威(反対車線の車がこちらの車線に侵入)
 →交感神経(活動的な自律神経)が働き、エネルギーが高まる
 →防衛反応(逃げる:ハンドルを切って追突を避ける)
 →ハンドルを切るという行動を通じてエネルギーが使いつくされる
 →交感神経の働きが低下
 →代わりに副交感神経(癒し系の自律神経)が前面に出て働き、リラックスする
 →防衛反応のプロセスが完了し、神経系は落ち着きを取り戻す

問題となるのは、防衛反応が何らかの理由で阻害され、高まったエネルギーを解放できなかった時です。では、どんな時に防衛反応が阻害されるのでしょうか。そこには、自律神経のパターンが大きく関係しています。

自律神経には、以下の特徴があることが広く知られています。

エネルギッシュな交感神経癒し系の副交感神経というふたつの神経があること
◇その時の状況により、このふたつのどちらかが前面に出て働くこと
◇どちらかのみがずっと働き続けるのではなく、交感神経の後には副交感神経が、副交感神経の後には交感神経が働くというような補完しあうリズムが自律神経にはあること
◇そのリズムがなだらかでスムーズであればある程、落ち着いていながらも、エネルギーがある心身の状態になること

自律神経の研究は日進月歩であり、最近では以下のことが明らかになりつつあります。

副交感神経には以下のふたつの種類があり、働きが異なる
主に体の前面に分布し、人との関わりの中で安らぎを得るという働きをする副交感神経
主に背中側に分布し、一人でのリラックス、休息、消化を司る副交感神経

①②は人間の生命に共に必要な機能であり、優劣をつけられるものではありません。しかし、②の主に背中側の副交感神経(一人でのリラックス、休息、消化)ばかりを用いて交感神経の覚醒をおさめるパターンがあると、神経系はシャットダウンを起こしやすくなり、脅威に遭遇した時の生理的反応(防衛反応)の完了を阻害する要因になります。なぜなら、②には急ブレーキをかけて交感神経をおさめるという特徴があり、それが神経系に負荷をかけるからです。パソコンやスマホなどに負荷がかかりすぎると、画面が固まったりシャットダウンするように、神経系にも負荷がかかりすぎるとシャットダウンを起こします。

ソマティック・エクスペリエンスでは、こういった神経系のパターンにアプローチし、シャットダウンを起こしづらい、しなやかで回復力のあるパターンの再構築を目指します。具体的には、②の主に背中側の副交感神経(一人でのリラックス、休息、消化を司る)ばかりが使われるパターンから、①の人との関わりの中で安らぎを得る副交感神経もうまく活用できるパターンへと、神経生理学に基づいた調整を行っていきます。

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まとめ

目的別に治療法、セラピーの特徴をまとめると、以下のような目安が考えられます。

副作用はあるものの、まずは楽に症状を抑えたい場合👉薬を用いた治療
思考や言語といった知的な部分を使って、症状の背景にある考えグセを変えたい場合👉認知行動療法
脅威に伴う感情を用いて考えグセを変え、PTSDの症状を軽減したい👉暴露療法
生理的なパターンを変えることでトラウマをはじめとした心身の不調を解消したい👉ソマティック・エクスペリエンス

それぞれの長所・短所を知り、自分自身の状態にフィットしたメソッドを選ぶことができるといいですね。

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